公開セミナー報告

  • 日時:2018年9月29日(土)14:00~16:30
  • 場所:東京大学ダイワユビキタス学術研究館、石橋信夫記念ホール
  • 主催:東京大学IR3S
  • 共催:国連大学、IGES、環境省

 PANCESプロジェクトリーダーである武内和彦氏および環境省の末續野百合氏より挨拶の後、まずは、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)グローバルアセスメントの共同議長であるエドアルド・ブロンディジオ氏より発表が行われた。ブロンディジオ氏は、先住民族が管理する土地は87か国で3,800万km2を超えるという事例を紹介しつつ(これは陸域における保護区および原生地区の約40%と重なる)、証拠に基づいて伝統知・地域知(ILK)をグローバルレベルにスケールアップしていく必要性を唱えた。

 続いて、UNESCOのサルバトーレ・アリコ氏は海洋に関する多くの課題(酸性化、脱酸素化、富栄養化、プラスチック、沿岸生態系の劣化等)を提示し、これらの課題解決における科学の役割として、データ収集、開発途上国における能力開発、将来の管理のためのシナリオ分析などを強調した。

 CSIROのサイモン・フェリエ氏は、IPBESのシナリオ・モデルアセスメントのキーメッセージを紹介するとともに、より柔軟な形で将来の自然を考えるためには、構造やタイプ、時空間など様々な観点からマルチスケールであるシナリオが重要であることを訴えた。

 発表の最後には、国連大学の齊藤修氏が登壇し、PANCESプロジェクトの進展を紹介した。

 東京大学の橋本禅氏がモデレーターを務めた後半のパネルディスカッションでは、前半の発表に対する質疑応答の後、Nature’s Contribution to People(NCP)と生態系サービス(ES)という2つの概念に関する最近の議論に対する各々の見解が示された。ブロンディジオ氏は、これら2つの概念は相違点よりも類似点が多いことを指摘し、このような議論は自然に関する理解を深めるために生産的かつ建設的であるべきことを述べた。アリコ氏もこの点に触れ、生態系の価値の理解に関する議論は進展しつつあり、現在では非経済的な価値(文化的価値や関係的価値等)についても議論が進んでいることを紹介した。ただし、フェリエ氏によれば、現在、人と自然の関係を表すような数値モデルはなく、このような研究が不足しているという。武内氏は「エコロジー」と「エコノミー」の語源が同じ「オイコス」(家)であることに触れ、ESの概念を改めて理解することが必要であることを強調した。

 パネルディスカッションではILKに関する議論もなされた。ブロンディジオ氏によれば、多くの場合、先住民族は似たような問題に直面しているため(たとえば道路やダムの建設)、ローカルな課題はグローバルな文脈やシナリオで分析可能であるという。また、齊藤氏からは、社会生態生産ランドスケープにおける生物多様性の保全と持続的な利用を促進するSATOYAMAイニシアティブを推進するためには、ILKと科学技術の融合を進める必要があるという意見が表明された。科学的な知識を重んじる気候変動コミュニティではILKがあまり評価されていないということを念頭に、アリコ氏と武内氏は、より広い知識を認めるIPBESこそILKの課題に対処すべきだと述べた。そして最後に武内氏は、ILKを科学の言語へと翻訳していくことが必要であるということを強調した。